ナショナル ソーダスト(National Sawdust)のある夜のプログラムでは、それぞれ異なる音響特性を空間に求める8人の作曲家と、8通りの音響セットアップが展開されることがあります。ある作品では再生音源が聴衆の周囲を移動し、次の作品では大聖堂のような広々とした響きが求められ、その次はロックバンドに適したタイトで制御された音響空間が必要になる、といった具合です。

この夏、ブルックリンにある同会場は、こうした音響変化を支えるMeyer Sound Constellation(コンステレーション)システムをアップグレードしました。新たなパートナーシップの一環としてプロセッシングをD-MitriからNADIAへ移行させ、Galileo GALAXY 816ネットワークプラットフォームを追加導入しました。「NADIAをリリースした際、私達は『ナショナル ソーダストはアクティブ アコースティクスと統合された空間オーディオにおけるベンチマークとなる会場だと位置づけました』と語りました」とMeyer Soundの空間サウンド担当ディレクターであるスティーヴ エリソン(Steve Ellison)は言います。「彼らは私達のフラッグシップ プラットフォームを使用していただく必要があったのです」

音響と空間オーディオを単一のプラットフォームで統合

Milan AVBネットワーク上で動作するNADIAは、処理経路ををConstellationアクティブ アコースティクス用と、増幅されたオーディオ用の2つに分けて運用しています。ナショナル ソーダストでは、同会場が2019年から使用していた初期バージョンのツールに代わり、現在は Spacemap® Goが後者の経路における空間ミキシングを制御しています。

Spacemap Goは空間オーディオへの技術的ハードルを下げてくれます。「このアップグレードの真の価値は、アーティストの創作活動を妨げない点にあります」とナショナル ソーダストのビジネス & イノベーション担当執行副社長であるアナ デ アルチュレタ(Ana De Archuleta)氏は語ります。「作曲家たちはこのホールに入ると、技術的なことを意識せずに済みます。ただ音を好きな場所に動かし、楽曲に合わせてリアルタイムで空間の響きを作り変えることができるのです」

「Spacemap Goはアーティストの前に置いて『ステージ上からミキシングを試してみませんか?』と言えるようなツールです。非常に直感的です」とナショナル ソーダストのサウンド & テクニカル デザイン ディレクターであるガース マカレヴィー(Garth MacAleavey)氏は語ります。

マカレヴィー氏は、これら2つの経路を自身のショー コントロールに連動させています。「「リハーサルに立ち会えない場合でも音響設定が確実に機能するよう、QLabでプログラム・チェンジを作成し、3つの異なるシステムに動作を指示する必要があります」と彼は説明します。「そうすれば、スタッフがショーの進行に合わせてキュー(合図)を送るだけで、ミキシング、Constellationの設定、そしてSpacemapのミックスやチャンネル・スナップショットの状態が切り替わるようになります」

Constellationの調整で初期反射音を追加

Constellationは2019年からこの空間の音響を形作ってきました。当初のシステムではリバーブ専用のプロセッサーが1台でしたが、新しいNADIAシステムでは3台が導入されています。「初期反射音を追加できたことで、ステージ上の演奏者にとっての体験も、客席から感じる演奏の空間的な印象も向上しました」とMeyer Soundのシニア アコースティック エンジニアであるジェシカ ボロフスキ(Jessica Borowski)は語ります。

ボロフスキとMeyer SoundのConstellationサポート スペシャリストであるレオナルド セラーニ(Leonardo Serani)は、同会場で多用されていた設定(10秒間という極めて長い残響設定を含む)の再構築も行いました。

マカレヴィー氏の手にかかれば、その設定はボーカリストのテオ ブレックマン(Theo Bleckmann)氏との共演で見せたように、まるで一つの楽器のように機能します。「可能な限り長い残響を設定します」と彼は説明します。「彼が音符をアルペジオで歌い上げると、その声から和音が響き渡るのが聞こえるのです」

アップグレード作業の最終日、マカレヴィー氏はシステムを7年間運用してきた経験を活かし、チームへ加わって1時間集中してリスニングを行いました。「『ここを基準点にしたい』と伝えることができました」と彼は語ります。「今では、リバーブや、よりタイトな初期反射音を求める際、エンジニアやサウンドデザイナーがまさに必要とするものが揃った『カスタム・メニュー』のような状態になっています」

空間パフォーマンスは会場を超えて展開される

NADIAとSpacemap Goを活用することで、空間音響を用いた作品を、対応設備を備えた会場間で容易に展開できるようになります。9月、ミュージシャン兼作曲家のエリック ホール(Erik Hall)氏が、ナショナル ソーダストでデビュー公演を行いました。スティーヴ ライヒ(Steve Reich)氏やシメオン テン ホルト(Simeon ten Holt)氏の作品を独自に解釈し、録音されたトラックに合わせて4種類の楽器をライブ演奏するという構成で高い評価を得ました。ライヒの『18人の音楽家のための音楽(Music for 18 Musicians)』に対する彼の解釈における空間音響デザインは、マサチューセッツ州ノースアダムズにある「Studio 9」で行われたFreshGrass Instituteのレジデンシー期間中に、マカレヴィー氏およびエリソン(Steve Ellison)氏と共同で制作されました。そのデザインはナショナル ソーダスト用に調整され、さらにその2日後にはバッファロー大学のExperimental Intermedia Lab向けにも最適化されました。

「『18人の音楽家のための音楽』のソロ アレンジ版は、自宅スタジオで各トラックを個別に録音したものですが、Meyer Soundのシステムは、まるで私のスタジオそのものを観客の目の前に再現するかのような効果をもたらしてくれました」とホール氏は語ります。「ステレオ録音の音源が、あたかもリスナーが楽器に囲まれた部屋の中に座っているかのような、包括的で立体的な体験へと生まれ変わったのです。さらにNADIAとSpacemap Goによって、創造的な意思決定の新たな可能性が大きく広がり、このプロジェクトにとって全く新しい章が幕を開けました」

しかし、このアップグレードがもたらす最大のインパクトは、より身近なところにあります。「ここはアーティストが新しい作品を創り上げる場所なのです」とマカレヴィー(Garth MacAleavey)氏は言います。「すでに実績のあるアーティストであっても、このシステムを活用することで、自身の作品やパフォーマンスを全く新しいレベルへと引き上げることができるのです」

ナショナル ソーダストにとって、このアップグレードはより長期的な取り組みの始まりでもあります。「これは、より大きな展開の幕開けです。5年間にわたるパートナーシップを通じて、Meyer Soundは単に私たちの空間に機材を導入するだけでなく、私達がこのステージで展開する作品における真のパートナーとなってくれるのです」とデ アルチュレタ氏は語ります。