レイモンド F. クレイヴィス 舞台芸術センター(Raymond F. Kravis Center for the Performing Arts)内の「ドレイフース ホール(Dreyfoos Hall)」は、Meyer SoundのTIGRAラインアレイと1800-LFC低域コントロール エレメントを完全なシステムとして導入した最初の施設となりました。メインホールにおけるSpacemap Goによる空間オーディオ機能から、共用エリアのネットワーク化された音響補強に至るまで、施設全体に広がるエコシステムの中心的な役割を担っています。このアップグレードは、18年間にわたり収容人数2,195人のホールを支えてきたMeyer Sound MICAアレイの後継として行われました。

非営利団体である同センターのウェストパームビーチ・キャンパス内で最大のステージを持つこのホールは、元来、交響楽の演奏を想定して設計されていました。しかし現在では、ブロードウェイ ミュージカル、ツアー コンサート、ジャズ、ダンス、コメディなどを上演しており、拡音(PA)を伴う演出の比重がかつてないほど高まっています。

ホールの可変音響構造も検討すべき重要な要素の一つでした。プロジェクト開始時にクレイヴィス センターのITプロジェクト マネジメント ディレクターであったクリス ペニントン(Chris Pennington)氏は、機材の仕様が決定される数年前から計画を牽引し、このアップグレードを立ち上げました。スピーカーの選定に先立ち、音響コンサルタント会社チャコールブルー(Charcoalblue)社がホールの音響特性の評価を行いました。「以前のアレイが前舞台の反射板(アコースティック クラウド)に非常に近かったため、そこからの反射音がオーケストラ席へ落ち、音の明瞭度に悪影響を与えているという仮説がありました」とチャコールブルー社のアソシエイト ディレクターであるニコラス コレア(Nicholas Correa)氏は語ります。

アップグレード前、こうした音響上の不具合は、特に客席の上層階で顕著に感じられました。「私自身、観客として座っているときに経験したことがあります」とクレイヴィス センターのプロダクション ディレクターであるマシュー ウィルト(Matthew Wilt)氏は語ります。「役者のセリフが完全に聞き取れなくなり、『声はどこへ行ってしまったのだろう』と思ったことがあります」

この問題を解決するには、ホール全体への音のカバレッジを根本から見直す必要がありました。

会場全体へ均一に音響エネルギーを向ける

プロジェクトの後期になり、当時まだ名前も発表もされていなかったTIGRAが検討対象として浮上しました。このラインアレイは、ドレイフース ホールが必要とする出力を、空間に適したサイズ感で提供するものでした。

決定の大きな要因となったのは信頼関係でした。同施設は2008年からMeyer Soundシステムを採用してきました。「Meyer Soundの実績や、開発中製品における彼らとの共同作業の経験から、プロジェクトへの導入を決めるにあたって、事前に実機の音を聴く必要すら感じませんでした」とコレア氏は語ります。

新設計ではメインアレイをより低い位置にフライング配置し、上方への音響エネルギーを抑えることで反射板への干渉を回避しています。メインシステムはL/C/R(左・中央・右)構成で吊り下げられ、中央のクラスターの ULTRA-X82ポイントソース スピーカー4台とULTRA-X40ダウンフィル1台を挟むように、左右に12台のTIGRAスピーカーによるアレイが配置されています。このLCR構成はバルコニー席の後方まで直接飛ばすのではなく、前方の数列をカバーすることで音像をステージ上に維持しています。バルコニー席の中央部は3台のULTRA-X40ポイントソース スピーカーがカバーし、最後列の2列についてはディレイ・システムによってカバーします。低域はグラデーション アレイとしてフライング配置された10台の1800-LFC低域コントロール エレメントが担います。サブウーファー アレイの下部にはULTRA-X80ダウンフィルが取り付けられています。一部の位置のスピーカーには、内装に合わせたカスタム カラー仕上げが施されました。

冗長化されたネットワークがシステムの信頼性と拡張性を向上

TIGRAはプロセッシングと制御をスピーカー本体に統合する「GEN-1」テクノロジーを標準搭載しています。システム全体は完全冗長化されたMilan AVBネットワーク上で動作し、すべてのスピーカーへ2本のEthernetケーブルが配線されているほか、Meyer SoundのNebraシステム マネジメント ソフトウェアを通じて包括的な制御とモニタリングが行われます。常設設備においてこの規模のネットワーク冗長化は珍しく、施設のプログラム内容が今後変化・発展していく中でも、強固な基盤として対応し続けることができます。

2台のGalileo GALAXY 408ネットワークプラットフォームが、システム全体のプロセッシングおよびSpacemap Goによる空間オーディオ処理の中核を担います。FOHのミキシング コンソールには、AVBカードを2枚搭載したAvid S6L 32Dが採用されています。

稼働中のホールで行われた15週間の改修工事

スピーカーを1台設置するにも、まずは建物の構造用鋼材を新たに入れ替える必要がありました。リギングやネットワーク設計を含むシステムの導入は、インテグレーターであるPro Audio Video Lighting(Pro AVL)社が担当しました。2008年に同ホールのMICAシステムを導入した取締役会長のロド シントウ(Rod Sintow)氏が、再び現場の指揮を執りました。計画から完了まで約2年を要したこのプロジェクトにおいて、実際の施工期間は15週間とされ、公演スケジュールとの調整を図りながら進められました。

Pro AVL社のショーン リスバーグ(Shawn Risberg)氏がエンジニアリングを主導し、同社プロジェクト リードのジェイソン アレン(Jason Allen)氏が施工管理を担当しました。Meyer Soundのシステム オプティマイゼーション ディレクターであるボブ マッカーシー(Bob McCarthy)がシステム設計を担当し、全工程を通じてチャコールブルー社やクレイヴィス センターの制作チームと連携を取りながら進められました。

ホール内にとどまらず、Meyer Soundの新しいスピーカーシステムは建物のパブリックエリアにも導入されています。大階段の常設システムはイベントやロビー トークをサポートします。また、隣接するガラス沿いのスピーカーは3つのセクションにゾーン分けされており、同時に行われるイベントが相互に干渉しないよう配慮されています。さらにウィンドザー ルーム(Windsor Room)、カール & ルース シャピロ ファウンダーズ ルーム(Carl & Ruth Shapiro Founders Room)、3階と4階のアルコーブ(吹き抜け・凹みスペース)にもMeyer Soundスピーカーが導入されています。

初日公演を終えて、その先へ

シーズンが開幕した今、真価が問われる時を迎えています。「当館のブロードウェイ シリーズには数多くの定期会員がいらっしゃいます」とウィルト氏は語ります。「今回の改修は、そうした会員の皆様の体験をより良いものにすると同時に、新たな観客層にもアピールするためのものです」

「残念ながらクリス ペニントン氏は今年の8月に亡くなりましたが、この最先端の改修プロジェクトに込められた彼のビジョンを私たちが引き継ぎ、実現できることを光栄に思います」とウィルト氏は語ります。「アーティストも観客も、これから何年間にもわたって彼の遺したレガシーを体験することでしょう」 ドレイフース ホールの最前列の1席には、ペニントン氏を偲ぶ記念プレートが設置されています。